人間関係や仕事に有益なヒントがあります。
『葉隠入門』三島由紀夫を参考にしました。
佐賀藩藩士で主君のそばで仕えた著者・山本常朝は、現代の会社でいう秘書のような人です。
それだけに組織の中でどう立ち振る舞うのが良いか、仕事への向き合い方、人生について
役立つ内容が盛りだくさんです。
一部をここに書きます。
1.組織人のためになる言葉
①リスク管理
「武士はどんなことにも気を配り、すこしでも失敗しそうなことは避けるべきである。」
→武士は今でいう組織人(会社員・公務員など)です。
書類を読み、同僚たちと話し合いしていたのでしょう。
今の私たちと変わりません。
②同僚たちから疎んじられないこと
「どんな才能を持っている人であっても、人から好かれない者は役に立たない。
役に立ち、仕事が好きで、謙虚で人間関係に波風立てないでニコニコしているものは
誰からも嫌われない。」
→仕事ができるには、人に「少なくとも嫌われない」ことが大事なのは当たり前です。
戦国の世が終わり、太平の世では官僚・役人と化した武士たちは、
同僚たちとの人間関係にずいぶん気を使っていたのでしょう。
才能があっても人望がなければ力を発揮することは難しいのです。
器用・利口な人は、頭だけで解決できると思い込む可能性があります。
真実でなくても理屈をこねてごまかせると考えがち。
だから小利口ではうまくいかないのです。
③意見をいう・助言する際の注意点
「意見を申し上げてその人の良くない点を正すことは難しい。
ただ単に相手に正直に言ってあげるのが親切のように思っているが、
恥をかかせて悪口を言うだけになってしまう。
受け入れられるか見分け、相手と親しくなり、
こちらの言うことを信用するような状態に仕向ける所から始める。
趣味のほうから入って言い方を工夫しタイミングを見計らって自分の失敗談を話し
余計なことを言わなくても思い当たるように仕向ける。
良いところを褒めて気分を引き立てるようにし、
のどが渇いたときに水が飲みたくなるように考えさせ、
そのうえで欠点を直させていく、それが本当の意見するというものである。
恥をかかせては、直るものも直らなくなってしまう。」
→「あなたのためを思って言ってるのだ」と親切心でこちらが慈悲深い、正義のヒーローだ
というつもりで忠告・助言する人がいます。
しかし単に相手に「偉そうに言いやがって」と不快感を持たせたり、
恥をかかせたりしただけになります。
正論は人間関係を壊しかねません。
ものをいう時は信頼関係を築いてから深い配慮で言うべきでしょう。
④様々な可能性を検討しておく
「事前にそれぞれの方法を検討しておいて、いざという時に決着をつける。
いろいろな事態を前もって検討しておくこと。」
⑤水清ければ魚棲まず
少しばかり見逃したり聞きのがしたりするから、下の者は安心して過ごすことができる
→正論・正義・ルール・しきたり・がんじがらめ、ばかりでは苦しくなります。
ゆるさが必要です。
⑥あやまち・ミスがあっても取り立てる
「あやまちを犯した者を認めないで捨ててしまえば、優れた人物は出てこない。
間違いを犯した者は反省して慎むから役に立てるものだ。
あやまちの一つもない者は、かえって危ない。」
→あやまちを犯したことがない(と言ってる)人は、
自信過剰で「これぐらい平気」と危ないことをするかもしれません。
あやまちがあっても小賢しく取り繕うでしょう。
2.仕事への向き合い方
①困難にぶつかったら大いに喜ぶこと
「水位が上がれば船は高くなるように、人も困難にぶつかるたびに大きく成長するものだ。」
②自分もやれる・できると思え
「名人も人なら、われもまた人、劣ることはないと奮発して対決してみれば
最早その道に入っているようなものである。」
→名人・達人も最初は新人・素人から始まったです。
年上で早くから始めたので今は名人ですが、同じように励めば自分も名人になれると
奮い立てというのです。
③偉ぶることなく、部下に親しげにすること
「部下に声をかけ、良く褒めること。
そうすれば身命を惜しまずよく働くものである。」
④自分の考えだけでは成長しない
「人を超えようと思ったら自分を批判させること・
意見を聞くのが一番。
自分の考えだけで済ませてしまうから、一層の飛躍がない。
相談し添削を頼むということ自体が、すでに人より上なのである。」
⑤できる人にならなくていい
「いかにもやり手らしく見える人は損である。
立派なことをしてもそれが当然のことと見える。
人と同じことをしても物足りなく見える。」
→10ある才能のうち3つか4つは内に秘めておくのです。
自分長所は秘めておいて、しかるべき時に発揮します。
そうすると組織内で輝きます。
⑥芸を磨かなくていい
「芸事に上手と言われる人は、なんの役にも立たない。」
→カラオケ上手でも業務には関係ない、宴会で目を引くだけのことです。
カラオケ上達するより業務のスキルアップをした方がいいのです。
⑦身だしなみ
「身だしなみに気を配り、普段から気のゆるみがないようにした」
3.人生での心構え
①今の一瞬一瞬の積み重ねが人生になる
「結局のところ重要なのは、現在の一念、
つまりひたすらな思いよりほかにはないということである。
一念、一念と積み重ねていって、それが一生となるのである。
これに気づけば他に無いかと探し求めることもないのである。」
→人生は、あるいは仕事は一瞬一瞬が積み重なったものなので、その一瞬を生きるまでです。
この一瞬にすべてがあり、いざという時、それは今です。
いざと言いう時と今を分けて考える者は、いざという時に間に合わない、
畳の上と寝床であろうと常に武勇を発揮できなければ、
それは本当の武士とは言えないというのです。
不動の決意をもって腹を据え、まっすぐに突き進むことだという心構えです。
②七息思案
「だらだら思案したものは七割は悪いもの、だから物事すべて早く行う必要がある。
心がうろたえているときは、思案もなかなか決まらないもの。
こだわりなく、さわやかに、落ち着いて、吹っ切れて、七呼吸の間に思案せよ。」
→心を落ち着かせるための呼吸法は現代でもあります。
と同時に七つの呼吸の間で思案決断しろと期限を切ること、これはなかなかできないです。
③大雨の戒め
「途中でにわか雨にあって濡れないように道を走り軒下を通ったところで、
しょせん濡れることに変わりはない。
はじめから濡れるものだと腹をくくっていれば、濡れても苦にならない。」
→物事もはじめからうまくいくわけではないと覚悟を決めることです。
④最悪を想定しても、思ったほどではないことも
「浪人になると苦労は並大抵のものではないと思っていた。
しかし一度浪人になってみたらそれほど心配したものではなく、
前に思っていたのとは大違いだ。
もう一度浪人してみたいものだ。
災難というものは事前に考えたほどのものではないので、
前もって苦しむのはばかばかしいことだ。
浪人することもあると覚悟しておくべきだ。」
→ここで重要なことは、
●事前に思ったことほど大変なことになると限らないから、前もって苦しまないこと
●そうなっても引き受けてやると覚悟しておくこと(それほど大変でないかもしれない)
⑤成功や失敗は自然の成り行きにすぎない
「人の盛衰は、しょせん運命である。
盛衰によってその人の善悪を論じることはできない。
盛衰とは自然の成り行きであり、善悪は人の判断によるものだからだ。」
⑥大器晩成であれ
「若いうちに出世してお役に立つものは効果がない。
才器が成熟していないうえ、人も十分には納得しないからである。
五十歳くらいになってから徐々に仕上げるのが良い
多くの人に出世が遅いと言われるくらいのほうが、本当の役に立つというものである。」
→速く成果を出そうとするのは禁物であり、
出世や才能開花は50歳ぐらいからでもよいというのです。
遅咲きは周りから嫉妬されたり、足も引っ張られにくいです。
速く出世しよう・成果を出そう・収入アップしようでは、
短期的な評価や結果、スキルに振り回され自分が見えなくなります。
「自分は何がやりたいのか」「家族との時間は持てているか」「人生この方向でいいのか」
⑦積極的に人の助言に耳を傾けよう
「三十歳を過ぎると助言してくれる人が少なくなり、わがままになる。
道理を知っている人に慣れ親しんで助言を受ける必要がある。」
→自分の視点でしか考えられなくなるので、
仕事の失敗や周囲との軋轢が生じやすくなります。
そこで、まわりへ相談したり、古人・古典の知恵に学ぶことが必要です。
わからないことを認めたくないものですが、それを素直に受け入れることです。
孔子の『論語』に
「知らざるを知る、是を知るというなり」
とあります。
中途半端に知っている・理解不十分なのに理解していると思い込んでいる、
これは知らないのと同じです。むしろ危険です。
「道」という言葉がありますが、自分の悪いこと・至らぬことを知ること、
そのため聖(ひじり)は自分の非を知ること、という説もあります。
簡単にわかってしまうことは表面的で誰でも知ることができるものです。
だからなかなか到達しえない深い知識知恵をしることを自分の楽しみにする、
という考えが昔からあり、賢人たちはこの心構えで知の探究を行ってきたのです。
⑧長い付き合いでも初心で接すれば、別れることはない
「慣れ親しむようになっても、初めて会ったころのように、慎みの心をもって接すれば、
仲たがいなど起こりはしないものである。」
⑨上杉謙信が勝てる秘訣
本人曰く「必勝のコツなど知らない。ただチャンスを捉えて逃がさないことだけを会得した」
⑩人生は短い、好きなことをして過ごすべき
「人間一生、まことにわずかの事なり。好いた事をして暮らすべきなり。
嫌なことばかりして苦しい目に遭うのは愚かなことである。」
→これも有名な一節ですが、あまり大っぴらに出さない、極意とのことです。
4.武士道とは何か
①死ぬ覚悟で当たること
「武士道といふは、死ぬ事と見付けたり。」
→葉隠で最も有名な一文ですが、一方で誤解されることの多い文でもあります。
死んでしまったら主君の役に立たないので、死ぬ事を勧めているわけではありません。
武士道を究めるには朝夕繰り返し死を覚悟すること、
今日が最後の日だと思い死ぬ身となって自分のなすべきことを全うする、
武勇にかけては自分以上の者はいない、自分ほど優れた者はいない、死を恐れぬ勇気、
そのようなことを説いています。
②常軌を逸するくらいの狂いでなければ
「武士道は死に物狂いである。数十人でも殺すことができないものである。
正気でいては、常軌を逸するようでなければ、大きな仕事はできない。
気違いになって死に狂いするまでである。」
③苦難でしょげかえる者は役に立たない
「しょげかえる・くたびれることなく、勇猛突進してすべてのものに勝ちまくる気持ち」
④お役に立てるのなら死ぬな
「生きても死しても残らぬ事ならば生きたがまし。」
→生きていた方が(組織でいうならその組織に所属している方が)良いということです。
⑤謙虚と自信過剰な部分~相反する
「仕事に関しては、大高慢で死に狂いの覚悟が必要
考え方・言い方・身のこなしは慎んで謙虚を心がける」
→武士道と比肩されるものとして騎士道があります。
ノブリス・オブリージュといい、エリートこそ、
いざという時に困難・危険なことを引き受けるべきという考えです。
●平常時:考え方・言い方・身のこなしは慎んで謙虚を心がける
●非常時:大高慢で死に狂いの覚悟
⑥沈黙は金
●武士に二言はない
●一言を軽んじるな
●口を慎む者は信用される
最後までお読みいただき、ありがとうございました。