『孫子』重要な点のまとめ~発想法が簡単にわかる

こんにちは、古神道家・東洋思想研究家・兵法家のヒデです。

この記事の目次



1.2500年前の書物が通用する?

『孫子』は2500年前の古代中国の兵法書です。

大昔の本で軍事の書物であり、現代のわれわれには参考にならないのではないか?

科学技術の発達した現在においては時代遅れで役に立たないのではないか?

とも思えます。

しかし孫子は、単純に当時の戦争のテクニックを書いた本ではありません。

『孫子』『呉子』など兵法・兵学・軍学と呼ばれる学問は、

こちらに損害・危険を最小にして楽に勝つにはどうすればよいか、

あるいは

こちらが弱小で勝ち目がなくても、どうしたら負けないようにできるか、

を学ぶ学問です。

そのために人間の心理・考え方と行動を冷徹に考察しています。

心理は数千年たっても人間の性質としてそう変わるものではありません。

ですから現代でも通用します。

2.百戦百勝はベストではない

「百戦百勝は善の善なるものに非ざるなり。

戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり」(第三 謀攻編)とあります。

戦争して全勝するのは、最善ではない。

戦わないで敵を屈する、

つまり敵が攻めて来れないようにしたり、こちらの主張を通すのが最善だ、

ということです。

このように戦わずして勝つことを重視しているのですが、なぜでしょうか?

それは、戦争は災いとなるからです。

兵法書は戦争をするための本だと思っていませんか?

いえ、実は戦争はなるべく回避して勝つ/少なくても負けないようにする、

その手法を書いている書物です。

「勝つ」とは、こちらの希望・条件がかなえられること、

「負けない」とは、希望・条件がかなわなくても、それほど悪い条件にならないこと

だと考えています。

3.「戦争は災いである」

兵士は国民の中から集められ、戦場に送られ、死に直面します。

もし国内が戦場になれば、兵士にならない一般国民も死の危険に直面します。

働き盛りの国民が兵士として送られれば、

農業・工業・商業の労働力・生産量が減少し、

戦地で物資を消耗するだけであり、経済活動が停滞します。

兵士つまり国民が死傷した場合には、

その分経済活動の回復ができず、戦費を賄う税金も少なくなります。

なにより悲しみによる暗い雰囲気が社会全体を覆うことになります。

国家にとっても、多額の戦費がかかり借金で補ったとしても、

税が減ることでより財政に影響が出ます。

たとえ戦争に勝っても、これらの影響は出ます。

疲弊がひどく、長期停滞に陥ることもあります(第二次世界大戦後のイギリス)。

戦況が思わしくないと、国民の不満が高まり、反体制活動も活発になり、

暴動・革命の恐れも出てきます(1905年の日露戦争時のロシアなど)

万が一、戦争に負けることになれば、国が滅亡することにもなりかねず、

国民もひどい目にあいます。

さらには、この勝者と敗者は文字通りヘトヘトになっていることもあります。

この疲弊した両者に言うことをきかせ、あるいは、滅ぼそうという、

漁夫の利を得ようとする第三国も現れる恐れがあります。

このように損害・危険の多い戦争は、災いなのです。

戦争は災いであると本心から分かっていれば、

勝算があったとしても軽々しく開戦しないでしょう。

4.単純な戦争回避論ではない

知恵を用いて多大な損失・危険を出さず楽に勝てるような戦争は、やってもよいのです。

最初から戦争を回避するつもりだと敵からなめられますし、味方の士気も落ちます。

短期で被害を最小にし問題解決するためには、実力行使も必要な時があるのです。

戦わずして勝つとは、例えば、

敵国と交渉をし、他方では敵国の同盟国にその敵国を説得してくれるよう頼み、

あるいは同盟を解消するよう説得します。

さらにこちらに味方してくれる同盟国を作り、

そのほかの国に対しては最低でも中立に立ってくれるようにします。

こちらに味方を多くし敵を丸裸にすることができれば、

敵も攻めにくくなり、こちらの主張を通しやすくなります。

やむを得ず戦争をしなければならなくなったとしても、

味方の援助を受けられるようにし、敵国に味方する国を少なくできれば、

楽に勝ちやすくなります。

例えば、日露戦争時の日本は日英同盟で当時最強の海軍国イギリスを同盟国にし、

資金等の物質的援助を受けることができました。

またロシア・バルティック艦隊が最短コースであるエジプト・スエズ運河を

通れないようにしてくれました。

米国も日本に好意的でした。

これに対して太平洋戦争時は、太平洋地域では周りをすべて敵に回してしまいました…

敵国内の反対勢力・反体制活動家を味方につけて内側からもかき回せば、

敵は戦争しにくくなり、より勝ちやすくなります。

日露戦争時の明石元二郎陸軍大佐が、

レーニンらに資金援助をしてロシア革命支援工作をおこない、

ロシア帝国は戦争継続しにくくなったことが、その例です。

武田信玄も、

五勝五負は上、七勝三敗は中、十戦十勝は下、

と言っています。

「戦争」を「争い」「交渉」と置き換えてもいいでしょう。

5.勝ち方は一つではない

以上のことは、

「上兵は謀を伐つ。その次は交を伐つ。

…善く兵を用いる者は、人の兵を屈するもしかも戦うにあらざるなり」(第三 謀攻編)

…「最も良いのは敵の謀略を破ることである。

その次によいのは敵とその同盟国の結びつきを破ることである。

…戦わないで敵を屈服させ勝つのである」

に表されています。

このように、戦争準備をし、和平交渉、同盟・協力関係を結び、

敵の内部かく乱工作もし、あらゆることをします。

相手が戦争できない状態に陥れ、あるいは戦争しにくい状態にして、

こちらが勝ちやすいようにして勝つのです。

表で目立つ戦争(戦闘)だけに目を向けてはいけないのです。

日露戦争では、外交も内部かく乱も国力を蓄えることもよくできていました。

太平洋戦争では、日中戦争で疲弊していたのに戦争突入したもので、

以上のことができていなかったように思います。

有利に勝つために、日頃からいざという時のためのあらゆる選択肢を確保しておきます。

実力をつけ、同盟者をつくり、協力者や理解してくれる者を増やします。

相手を動揺させるための材料も用意しておきます。

こちらが多くの手を持っていてそれだけでも有利であり、

またどの手を打ってくるか敵には判断しにくいので、

迂闊に手を出してくることはできなくなります。

こうなると無言の圧力で敵を屈することができます。

家族・友人・近所の人の生死・生活がかかっており、

外交・策略で戦争を早く終わらせることができれば

敵味方ともに悲劇・苦しみを最小限にすることができます。

兵法は人道的なのです!

6.勝ちすぎることも災い

勝ちすぎて敵を徹底的に痛めつけると、敵から恨みを持たれて復讐されます。

第一次世界大戦処理のベルサイユ条約では、敗戦国ドイツに多額の賠償金を課しました。

これがドイツ経済・国民生活を混乱させて、

ドイツ国民の反感を買うことになってしまいました。

「フランス・イギリスめ、許さない!」

これが第二次世界大戦につながったと言われています。

逆に普墺戦争では戦勝国プロイセン(ドイツ帝国になります)は、

敗戦国オーストリアに賠償金を課さないなど、寛大な処置をしました。

その後のドイツ帝国とオーストリア・ハンガリー帝国は同盟関係になるのですが、

この寛大な処置が下地になったともいわれています。

それに、勝ちすぎた強い戦勝国は、

周りの国々から「自分の国も攻められるのではないか」と恐れられ危険視されます。

その強い力を削ごうと、連合して攻められます。

例えば

中国の春秋戦国時代の、山東半島にあった斉という国は強くなりすぎて、

周りの国々から攻められ、弱体化してしまいました。

適度に負けて(勝ちを譲り)、しかしこちらの安全を守り、

主張も通すだけの結果をおさめるのがよいのでしょう。

「能ある鷹は爪を隠す」という言葉がありますが、これと近いように思います。

才能能力をひけらかして得意顔になり、妬まれて罠をしかけられたりします。

失脚・左遷されても誰も声をかけてくれません。

これに対し相手に花をもたせて自分は馬鹿のふりをしておけば、

妬まれず穏やかな日々を送ることができます。

それでいてポイントとなることはしっかりこなすと信頼されるのではないでしょうか。

7.なぜ騙しを使うのか?

「兵とは詭道なり」(第一 計編)とあります。

詭道とは正常なやり方に反した、相手の裏をかくしわざ、あるいは欺くこと、

という意味です。

孫子はその後に具体例をあげています。

強くても敵には弱く見せ、勇敢でも敵には臆病に見せ、近くても敵には遠いと思わせる。

敵が利益を求めていればその利益をちらつかせて誘い出す。

敵が混乱していればその物・陣地を奪い取る。

敵が準備万端なら防御をしっかりする。

敵が強ければむやみに戦わず避ける。

敵が怒っていればかき乱してコントロールできなくする。

敵が謙虚でつつましくしているときはおごり高ぶらせる。

敵に気力体力が充実しているときは疲労させる。

敵が親しみ合って結束していれば、分裂させる。

戦争は、人的・経済的・物資的に損害を受け、第三国が介入してくる危険もあります。

真正面から戦争をすると、これらの損害・危険は極めて大きくなります。

詭道により、これらの損害・危険をなるべく少なくするのです。

犠牲を少なくするためと言ってもよいのかもしれません。

この「兵とは詭道なり」が孫子の重要な原則です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。



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