『孫子』まとめ~戦争を推奨する書物だと思っていませんか?戦争回避を訴えています

こんにちは、古神道と東洋思想、兵学の研究家ヒデです。

『孫子』をまとめてありますが、やや長文です。



『孫子』は2500年前の古代中国の兵法書です。

大昔の本で、現代のわれわれには参考にならないのではないか?

また軍事をテーマにしており、軍人でない人にとっては関係ないのではないか?

さらに科学技術の発達した現在においては、

当時の武器・戦法は時代遅れで役に立たないのではないか?

これらのことから、孫子を学ぶ必要はないと考えてしまうのも無理がないでしょう。

しかし孫子は、単純に当時の戦争のテクニックを書いた本ではありません。

こちらに損害・危険を最小にして楽に勝つにはどうすればよいか、を書いた本です。

そのために人間の心理・考え方と行動を冷徹に考察しています。

これら心理などは数千年たっても人間の性質としてそう変わるものではありません。

ですから現代でも通用するのだと思います。

むしろ余計な知識・技術がない分、本質的なことがむき出しで書かれています。

軍事を題材にしていますが、それに限られるのでもないと思います。

戦争に限らずあらゆることは人間が行うことであり、

人間の心理・考え方、行動に大きく左右されるものです。

科学技術などは確かに結果に影響を与えるものですが、

それを使う人間の心理に大きく影響されます。

すぐれた孫子の知恵を紹介しています。

孫子は薄い書物で、もちろん文章も少なく背後にある考えを読み取るのは難しいです。

平和や人間への愛があると思います。

「戦争で死んでしまった者は生き返ることはないし、

滅んでしまった国も同じである」とあります。

これは当たり前のことですが、本当に理解していないから、

むやみに戦争をおこしてたくさんの人を死なせて国も滅ぼした例が歴史に多くあるのです。

人命や国の命運を大事にするからこそ、むやみに戦争をしてはならない、

しかし国同士のトラブルは解決しなければならない。

だから戦わずして勝つ、という有名な孫子のテーマが出て来るのです。

そうするためには、はかりごとを使ったり、騙したり、

同盟関係で味方を増やしてトラブルを解決しようとするのです。

騙し合いをすることを書いている点で道徳的にどうなのかな?とも思われがちですが、

人命等より大きな価値のためには、やむを得ないと思います。

天秤に、人命と道徳をかけて、人命が大事だからということです。

はかりごとや騙すということは、

例えば、敵国・ライバル企業などの内部をかき乱して、

戦争・競争どころではないようにする、ことが挙げられます。

内部の者同士の仲を悪くさせたり、偽の情報を与えたりなどです。

また、我々に勝てないと思わせるような偽装をしたり、

正面からも裏面からもいろいろな手法を使う相手だということを知らせて諦めさせたり、

ということです。

孫子は戦争はしてはならないと言っているのではありません。

多くの手段を残しておいて有利に立ち、トラブルを解決するのですから、

いざという時には戦いますよ、というカードも持っていることで、解決できるのです。

あらかじめ我が国は戦争をしないと宣言していると、

外交交渉しても相手にされなくなります。

もちろん勝算のない戦争はしてはならないし、

一か八かの賭けも、たくさんの人命がかかることだからしてはならないのです。

ただし勝算があってもむやみに戦争をしてはなりません。

その理由は、

①徴兵されて労働力が減少します。

②早く戦争が終わって兵士が怪我も病気もしないで帰ってくれば労働力は回復しますが、

死傷者が多いと労働力がその分長期的に減少したままになります。

③戦争の費用も税金から徴収されて国民の負担になります。

④労働力が不足している上に、戦場へ食糧・武器などを調達するので、

国内の物資も不足します。

経済・国民生活に大きな影響を及ぼします。

死傷者が増えて国内も荒らされると、国民に精神的ストレスがかかり、

政府への不満となり治安の悪化・内乱へと結びつくおそれがあります。

たとえ勝ったとしても、戦争で疲れていると周りの国から攻められて、

滅ぼされる恐れもあります。

群雄割拠していた中国の春秋戦国時代ではこのような状態が続いていたのであり、

多くの小さな国々が生き残りをかけていたのです。

孫子はこの時代に書かれたため、戦わずして勝つというテーマが出てきたと思います。

国同士の戦争でなくても、企業間の競争で、

忙しい割に利益の出ない値下げ競争を繰り返して疲弊し、

そこに新たなサービスを提供する第三の企業が参入して来たために、

窮地に陥ることもあります。

以上のように、戦わずして勝つことが最善であり、

戦うにしても損失を少なくして最終的に負けない(存続する)

ことを説いていることになります。

負けない戦いということについて、

吉田兼好の『徒然草』には、

双六の名人(ばくち)の勝つ秘訣について聞いたエピソードがあります。

「勝とうと思ってやるな、負けないと思ってやれ。

早く負ける手はどれか考えてその手に行かないようにし、

少しでも遅く負けない手を使っていくべきだ」

早く勝とう、早く成功しよう、早く儲けようと急ぎすぎて

失敗する人が多いでしょう。

自分の事業が早く終了する道・自分の資金が早くなくなってしまう道を避けるようにして、

少しでも長く存続できる道を選ぶことですね。

「軍の撃たんと欲する所、城の攻めんとする所、人の殺さんとする所は、

必ず先ずその守将・左右・謁者・門者・舎人の姓名を知り、

わが間をして必ずもとめてこれを知らしむ。」(第十三 用間篇)

撃ちたいと思う軍隊や攻めたいと思う城や殺したいと思う人物については、

必ずその将軍や左右の近臣や門を守る者や宮中を守る役人の姓名をまず知って、

味方の間諜に必ずさらに追求してそれらの人物のことを調べさせる。

「敵を知る」ことは『孫子』の中で何回も力説されています。

確実に成果を上げようとするなら、要となるキーマンを調べ上げることが必要です。

ライバルだけでなく顧客も対象です。

出身地・趣味・家族構成のほかに、

金や地位に執着するほうか、酒・女・ギャンブルは好きか、

などの情報を蓄積します。

いざという時に活用できるかもしれません。

また普段でもどういう傾向の行動を起こすかを蓄積すれば、行動予測もできます。

この篇の最後に

「明主賢将のみよく上智をもって間者となして必ず大功を成す。

これ兵の要にして、三軍たのみて動く所なり」

とあります。

「聡明な君主や優れた将軍であってこそ、

初めて優れた知恵者を間諜として必ず偉大な功業を成し遂げることができるのである。

この間諜こそ戦争の要であり、全軍がそれに頼って行動するものである」

という意味です。

情報収集と分析・判断の重要さを最後にまた説いています。

前にも書きましたが、

小さな事故が起きているにもかかわらず、

それが十分社内に伝わらず修理を行わなかった結果、

重大事故につながってしまった自動車会社は、情報の収集が不十分だったと言えます。

海外の駐在官からの外国の軍備に関する情報・開戦の危険性を知らせたことに対して、

弱腰・敗北主義だとして退けた日本陸軍。

その会社の牛乳を飲んだ人が下痢した人が多く出ても

「牛乳で下痢する人はいるものだ」として適切な対応をとらなかった乳業の会社。

これらは情報の分析・判断が不適切でした。

「敵を知る」「勝ち易きに勝つ」「人を致して人に致されず」などを実行し結果を出すには

情報の収集・分析・判断(特に収集)が基礎にあってのことです。

『孫子』の最後にこの文章が来ていることは、

「これがおろそかだとほぼ確実に負けるから、とどめを刺すつもりで言っておく」

というメッセージなのでしょう。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。



シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする