【日本語】「日本」はなぜニッポンと二ホン、2つの読み方をするのか

世界には7000もの数多くの言語があるといわれますが、その中でも日本語は特殊です。

この日本語の不思議について書きます。

今回は「日本」にはなぜニッポンと二ホン、2つの読み方をするのか、についてです。



1.日本の読み方が2つあるのはいつから?

戦国時代に日本に来たポルトガル人の宣教師たちが、

当時の日本語とポルトガル語の辞書を作りました。(日葡辞書)

その中で「日本」の読み方を、Nifon・Nipponと2つあると書いてあるそうです。

すでに戦国時代時点で、日本には2つの読み方をしていたことになります。

「日本橋」も東京では「ニホンバシ」、大阪では「ニッポンバシ」と読み方が異なります。

なぜ2つの読み方が存在した・しているのか。

以下、『日本語の発音はどう変わってきたか』釘貫亨著(中公新書)を参考にしています。

2.ハ行の発音の変化

①ハ行はなぜ、ha・ba・paと3種類の発音があるのか

子供のころに不思議だったことがあります。

カ行は、

清音:カka、キki、クku、ケke、コko

濁音:ガga、ギgi、グgu、ゲge、ゴgo

サ行は、

清音:サsaシしshi、スsu、セse、ソso

濁音:ザza、ジji、ズzu、ゼze、ゾzo

タ行は、

清音:タta、チchi、ツtu、テte、トto

濁音:ダda、ヂdzi、ヅdzu、デde、ドdo

と清音と濁音の2種類なのに、

ハ行だけは、

清音:ハha、ヒhi、フfu、ヘhe、ホho

濁音:バba、ビbi、ブbu、ベbe、ボbo

半濁音:パpa、ピpi、プpu、ペpe、ポpo

と3種類もあります。

なぜこうなっているのか?

②音声学~奈良時代のハ行はp音だった!

音声学の研究によると、奈良時代の「ハ行」の発音は「パピプペポ」だった、とのことです。

これは明治時代の大槻文彦『広日本文典』、

言語学者上田万年(1867~1937)の比較言語学的手法、

言語学者有坂秀世(1908~1952)の万葉仮名分析により、

ハ行はpで発音されていたことがわかっているとのことです。

万葉仮名は、当時の日本語の発音を表記するのに、漢字の読みで表していたものです。

そのためどの漢字を使っていたかにより、当時の日本語の発音を知ることができます。

ハ行ハヒフヘホで使われた漢字は、

ハ:波・播・芳・破・方・半・泊

ヒ:比・卑・必・非・悲

フ:布・不・敷・富

ヘ:倍・辺・平・部・閉

ホ:保・本・宝・褒

です。

これら漢字の中国中古音は、p・bのような上下の唇を合わせて破裂的に離す両唇破裂音です。

③h音はなかったのか?

一方で

現代のハ行子音のh音を持つ漢字は使われていないとのことで

h音はk音として聞いていたようです。

かつて読んだ本で

(タイトルは忘れましたが、弥生時代の日本語というような名だったと思います)

弥生時代のカ行はh音も含んでおり、カとハどちらも聞こえる(?)とのこと。

そのためお母さんのことを

カカ様・ハハ様と両方の読み方が存在するようになったそうです。

④ハ行はf音に変化しさらにh音へ

ハ行は奈良時代にはp音だったのが、平安時代に唇音が退化してf音になったとあります。

そのためもともとハ行は、他のカ行サ行タ行と同じく

濁音:バba、ビbi、ブbu、ベbe、ボbo

半濁音:パpa、ピpi、プpu、ペpe、ポpo

の2種類だったのが、f音(h音と一体化?)とb音とp音の3種類になったようなのです。

ハ行のf音は、先のポルトガル人宣教師が作成した辞書の日本語発音表記で確認できます。

また次の室町時代のなぞなぞでも確認できます。

「母とは二度会ったが、父とは一度も会わないもの、何だ?」

「ハハ」は、歯と唇が触れて(会って)「ファファ」と発音されていたことがわかります。

「チチ」はtitiとも発音され、歯と唇が触れて(会って)いません。

⑤「日本」の読み方は2つの発音が併存しているから

冒頭の「日本」はなぜニッポンと二ホン、2つの読み方をするのか、ですが、

ハ行の発音は奈良時代のp音と平安時代以降のf音・h音両方が併存していることから、

2つの読み方が存在すると考えています。(私見)

3.読み方が併存することは多くあるのか

読み方が併存する例があるのか、について書きます。

日本の漢字文化は、読み方が併存するのが通常です。

山という漢字は、中国大陸では「サン」と発音されていれば、これを「音読み」、

日本語では山のことを「やま」と言うのであれば漢字と結び付けて「訓読み」とし、

「山」には「サン」(音読み)と「やま」(訓読み)ができることになります。

ただし問題は、音読みも訓読みも一つとは限らないことです。

「行」という漢字には

音読み:コウ(銀行)、ギョウ(修行)、アン(行脚)

訓読み:いく(行く)、おこなう(行う)

など複数の読みがあります。

漢字一字一音の現代中国語にはない特徴、中国人も驚くそうです。

このようになった背景は、大陸文化を吸収した時期の中国語の発音が

時代ごと・地域ごとに異なったことにあります。

●呉音(3~6世紀):江南地域(上海や南京付近)からの渡来人の文化

日本は古墳・飛鳥時代、仏教の言葉が多い

●漢音(6~8世紀):隋唐帝国の洛陽・長安のような黄河流域

遣隋使・遣唐使が持ち帰った読み方

●唐音(13世紀):鎌倉時代の日宋交流で禅宗の用語が多い

呉音 ニチ ニョ モク マイ ライ モン
漢音 ジツ ジョ ボク ベイ レイ ブン
呉音 ショウ ゴク ガウ ビョウ ゴン ホン コン
漢音 セイ キョク キョウ ヘイ キン ヒン キン

漢字は知識人・政権の専有物でした。

●呉音:飛鳥・奈良の仏教界

●漢音:奈良・平安の律令政府

●唐音:禅宗

各知識人社会の専有・音読のしきたりだったのが、

民衆に仏教や学問等広がるに従い音読のしきたりも受け継がれ、

複数の読み方を学ばなければならなくなったようなのです。

この流れから、漢字には複数の読み方があるのが通常となり、

日本の読み方も複数、許容されるようになったのではと思われます。

4.日本をジパングと呼んだ理由

「日本国」を元代・明代(日本では鎌倉~安土桃山時代あたり)の中国では

ジッポングオという読み方だったそうです。

日:元日のジツ

本:1本2本のポン

国:現代中国語でもグオと読む

元の皇帝フビライハンに謁見したイタリア人マルコポーロは

帰国後『東方見聞録』の中で日本のことを「ジパング」と紹介しています。

「ジッポングオ」と聞いてそう聞こえたのでしょう。

これにより西洋では

ジャパン:Japan(英語)

ジャポン:Japon(フランス語)

ヤーパン:Japan(ドイツ語)

ちなみに

リーベン:日本Rìběn(中国語)

イルボン:일본(韓国語)

余談ですが

中国は最初の統一王朝の秦(始皇帝の国)シンがなまって

China:シーナ(フランス語)

China:ヒーナ(ドイツ語)

China:チャイナ(英語)

と呼ばれるようになり、

朝鮮・韓国は高麗(コウライ)がなまって

Korea:コリア(英語)

と呼ばれるようになったといわれています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。



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