完全・完璧でなければならないと思っていませんか?
ミスをしないで正確適切に物事を行わなければならないと。
しかしこれと逆の考えが神道にあります。
「満つれば欠ける」「完璧なものは、その瞬間から崩壊が始まる」という言葉です。
完成してしまうと、衰退・滅びが始まってしまう、だから不完全でいいのです。
日光東照宮には一本だけ柱の模様がさかさまの逆さ柱があります。
これはあえて不完全・未完成の状態にしておくことで、
衰退・滅びが始まらないようにとの祈りが込められています。
「百戦百勝は最善ではない」(孫子)
「戦いは五分の勝ちをもって上となし、七分を中とし、十を下とす」
(完勝は危険。7割の勝率はまあまあ。半分勝つぐらいでいい)(武田信玄)
「勝って兜の緒を締める」ことわざ
などの言葉にも表れています。
完璧・頂点・ナンバーワンを目指さないのです。
伊勢神宮の式年遷宮も、不完全にして衰退・滅びが始まらないシステムです。
地面の上に柱を直接建てる、掘立の建て方です。
掘立だと地面の湿気により柱が朽ちやすく、建物の寿命が短くなります。
地面に礎石をおいてその上に柱を立てることで、建物は長持ちします。
あえてそうしないこと・不完全にする目的は、
次の社殿を建てるため、植林や技術継承を常に考えていなければなりません。
遷宮は20年間隔なので、氣を張り詰めています。
氣が緩むと大失敗を招きます。
怠らないで努力し続けるシステムなのです。
五重塔がなぜ地震で壊れないか?聞いたことはないですか。
法隆寺五重塔や薬師寺東塔などは、建てられて千年以上たっています。
この間に何度も大地震があったのに。
地震に強いのは、各部材どうし隙間があり各部材が動くようになっています。
釘を使わないので、部材どうし固定されず動きます。
それぞれの部材で揺れを吸収できるので、地震の影響を抑えることができます。
ガチガチに固く頑丈に作っていたら、逆に壊れやすいでしょう。
熊本地震の時、熊本城の天守から瓦がどんどん落ちました。
一見すると大きな被害を被っているように見えます。
重たい瓦は台風で屋根が飛ばないようにするために役立ちます。
しかし地震の時はその重みで建物倒壊を引き起こしやすくなります。
瓦が落ちることで、建物倒壊を防ぐのです。
完全な方法・レシピにすると、後継者たちや後世の人はそれをありがたく思って
「この通りにすれば安泰だ」と思いがち。
それでは暖簾や後継者たち後世の人たちのためになりません。
お客様や社会にとっても不利益です。
あえて未完成にして後世の人に後を引き継いでもらい、
試行錯誤・改良してもらいます。
製品・技術・サービスがレベルアップしていくので、お客様・社会のためにもなります。
古人・先人と後世の人たちの共同作業です。
伝統とは過去のやり方をそのまま続けていくことではありません。
伸びしろ・緩さがあることが大切なのです。
洋服は、その人の身体に合わせて寸法を測って仕立てて着ます。
その人しか着れません。
和服は、誰にでも会うようにゆったりと作ってあります。
着る人の身体に合わせて、お腹周りは帯で調整して着用します。
裾が長めなので、身長に合わせて帯のところで折ってちょうどよい背丈にします。
それだから、祖母→母→私→娘→孫娘 と代々伝えて着続けることができます。
千年前の平安時代の十二単(カラフルな着物を重ね着)は、
いろいろな着物を重ね着しているだけなので、誰でも着れます。
草履や下駄は誰でも履けますが、靴はそうはいきません。
規格を設けず緩くしているから、多くの人に対応できるのです。