こんにちは、古神道と東洋思想、兵学の研究家ヒデです。
人材や能力に頼ろうとしない、という内容です。
「善く戦う者は、これを勢に求めて人に責めず。
故によく人をえらびて勢に任ぜしむ。
勢に任ずる者は、その人を戦わしむるや木石を転ずるがごとし。
…
円石を千仞の山に転ずるがごとくなる者は、勢なり。」(第五 勢篇)
戦いに巧みな人は、勢いによって勝利を得ようとして、人材に頼ろうとはしない。
だから、うまく種々の長所を備えた人々を選び出して、勢のままにさせることができる。
勢のままにまかせる人が兵士を戦わせるありさまは、木や石を転がすようなものである。
…
高い山から丸い石を転がしたようになるのが、勢というものである。
という意味です。
組織にはいつも優秀な部下ばかりいるとは限りません。
優秀な部下に頼らなくても、平均的な部下だけで勝てるようにします。
平均的な個人の失敗を想定し、組織全体への影響が最小になるようにです。
この時もその個人を追及するのは不可。
期待した成果が出なければ、それはトップ・幹部の責任であり、
部下個人の責任としてはならないのです。
平均的な部下だけで勝つためには、部下をなるべく適材適所に配置して、
その長所を最大限に発揮させるようにします。
これにより、部下がやる気を出し、組織のパワーアップ・勢になります。
かつてナポレオンは、安全な後方にいるのではなく、
自ら陣頭に立って兵士を率いたそうです。
司令官は普通おいしい料理を食べ、暖かく柔らかいベッドで寝るのに、
ナポレオンは兵士と同じ粗末な食物を食べ、粗末な寝床で寝て、
苦楽を共にしたという話があります。
開戦前にはなぜ戦うのか(祖国の防衛)についての演説もしました。
このようにして、兵士を奮い立たせ、強いナポレオン軍が出来上がったのです。
トップ・幹部は高給を取っているのに、楽して遊んでいたら、部下はだれも付いてきません。
トップたちが楽して遊ぶために、誰も苦労して働こうと思わないからです。
逆に高給の分だけ率先して苦しむことで、部下がついてくるのです。
このように奮い立ち、やる気を出した者たちは戦う機会があれば、
強い力を出すことでしょう。
これが勢です。
中国前漢の韓信は、背水の陣をひいて絶体絶命の状況を作り出しました。
そして兵士たちに死に物狂いの戦いをさせることで、
兵士たちに持てる力を振り絞らせ、勝利しました。
兵士たちの自発的奮闘に期待するのではなく、
死力を尽くさせる状況を作り出したものであり、これも勢です。
豊臣秀吉は、本能寺の変すぐ後の中国大返しで織田家部将の中でいち早く近畿地方に戻り、
明智光秀を討ち果たしました。
他の誰よりも早く主君の仇打ちをしようとしたので、多くの大名・豪族が味方に加わり、
明智方に加わるものは少なく、勝利しました。
さらに織田信長の葬儀を執り行いました。
これらにより、織田家に古くから仕えてきた部将たちがいるにもかかわらず、
秀吉は信長の後継者であると、皆が思い込み、あるいは賛成し、天下人となったのです。
世論・時流を味方につけたもので、これも勢でしょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。