【年中行事の呪術】正月になぜ鏡餅を供えるか・おせちを食べるのか

私たちの生活には、年中行事や冠婚葬祭のしきたりや習慣があります。

「なぜそうしているのか?」

呪術的な理由を書きました。

今回は年が変わる正月のしきたり・習慣を紹介します。

この記事の目次



1.なぜ鏡餅というのか

正月の儀式や風習は、すべて年神(歳神)様を迎えるためのものです。

門松は、年神様の目印。

①鏡餅

鏡餅は、年神様へのお供え物。

年神様をお迎えするのが松の内(1月7日まで)で、

それを過ぎて新しいことの始まりの意味で、11日に鏡開きをします。

包丁などで切るのは切腹を連想するので、木づちなどで叩いて割ります。

「割る」ではなく「開く」言葉を使うのも呪術です。

せんべいを割って食べるのにも、同じ意味があるようです。

餅は、ハレの日(冠婚葬祭を行う特別な日)に、神様に捧げる神聖な食べ物。

鏡餅というのは昔の鏡が円形だったからで、人の魂を模したから円形になったとされます。

神社の御神体は鏡であることが多いですが、

それに似ていることから鏡餅になったともいわれてます。

餅を二重に重ね合わせるのは、月(陰)と日(陽)を表していて福徳が重なっていて

縁起が良いと考えられたからと言います。

さらに鏡には「神が噛む」「神がかる」に通じ、神秘性と神との一体性を表します。

日本は数え年の風習があるので、正月は全員の誕生日。

だから正月は私たちが生まれてきたこと・年を重ねていることを

祝ったり祈ったりするときで、その祝いの品が鏡餅なのです。

鏡は真ん中の「我」を取り去ったときに「神」になる、

だから鏡を見つめてひたすら我を取り除こうとする行法があります。

巫女の継承に鏡餅が使われることがあります。

継承者が巫女にふさわしければ、夜中に鏡餅が「バーン」と大きな音を立てて割れる、

それが起きたら神が新しい巫女に宿ったと考えられました。

②橙

鏡餅の上には、みかんのようなものを乗せますが、正確には「橙(だいだい)」。

橙は木から落ちずに大きく育つことから、その家が繁栄して「代々」続くようにと

縁起を担いでいます。

③扇子

末広がりに繁盛すること

④伊勢海老

海の老と書いて腰が曲がっても元気で長寿健康を祈って。

赤色が魔除けで、武将が鎧兜をつけた状態に似ていて、命運が長く続くように。

⑤松

冬雪が降っても青々とした松は不老長寿

松は神が降臨する木でもあります。

⑥昆布

「子生婦」と書いて子孫繁栄の願いを込めるから。

⑦ゆずり葉

大きな葉で、新しい芽が十分に育つまで古い葉が落ちない。

新しい葉が育ってから古い葉が代を譲るという意味で、

家が代々、繁栄するという願いが込められています。

⑧裏白

裏が白色のシダ植物で、腹の中は白、清廉潔白を表す。

古い葉が落ちずに新しい葉が出てくるので、家族が繁栄、

左右対称になっているので、夫婦円満も。

⑨御幣

紅白の対の紙で、大きく手を広げて繁盛を祈る。

⑩四方紅(しほうべに)

鏡餅の敷き紙で、四方を紅で縁取った正方形の紙。

天地四方の災いを祓い、一年の繁栄を祈願。

⑪三方

お供え物を乗せる白木の台。

盆である折敷(おしき)とその下の台からなる。

2.御節(おせち)料理のメニューの秘密

①おせちはもともと年に何回もあった

季節の変わり目である、

五節句(1月7日人日、3月3日上巳、5月5日端午、7月7日七夕、9月9日重陽)

元旦と8月1日の八朔にお祝いするようになりました。

もともとはこれらで年神様にお節料理があったそうですが、

今では最も大事な正月に限定した縁起物の家庭料理になっています。

②重箱にいれる理由

おせち料理は正月のお祝い料理で、めでたいことを重ねるという意味を込めて

重箱に詰められます。

Wikipediaより

順番があります。

地域・家庭により詰め方が異なり、上から

一の重:三つ肴(および口取り)

二の重:焼き物(口取りと言う地域)

三の重:酢の物(海の幸と言う地域も)

与の重:煮物(山の幸と言う地域も)

五の重:何も入れない(年神様から授かる福を入れるという説)

最近は三段重が多いようです。

火を通したり酢につけたり煮しめしたりして、日持ちを良くしていますが、

正月に休みになる食事処が多いからですが、

主婦が台所仕事を休められるようにと言う配慮でもあります。

③口取り(肴)~最初にいただく食べ物

おもてなし料理でお吸い物と一緒に出される酒の肴となる物のことで、

かまぼこやきんとんなど、海山の食材。

縁起が良いとされる奇数。

最初にいただくので、一の重に詰めます。

④肴(さかな)~この三種類あれば

肴(さかな)は酒の菜(副食)のことで、つまみを意味します。

関西では酒にあてがうことから「アテ」とも言います。

肴には味噌や野菜など様々ありましたが、

中でも「うお」と呼ばれていた「魚」がおいしかったので、

江戸時代ごろから「魚」を「さかな」と呼ぶようになったという説があります。

煮しめ・酢の物・焼き物を祝い肴(さかな)三種・三つ肴と呼びます。

この三種類の肴は

●関東:黒豆・田作り・数の子。

●関西:黒豆・田作り・たたきごぼう。

どれも手に入りやすい食材で、数の子も当時は値段が安かったそうです。

江戸では三つ肴と餅があれば「正月は来る」と言われていました。

手に入るもので作ることがおせち料理作りの基本にあったようです。

豪華なおせち料理が作られるようになったのは、

デパートでおせち料理が売り出されるようになってからのようです。

五穀豊穣や家族の健康・幸せを願って

年神様にお供えし、いただくのがおせち料理の原点です。

⑤それぞれの食べ物の意味

食べ物の縁起物には呪術的な意味があります。

●黒豆:「黒」は邪除けの色。一年中まめに働き、まめ(健やか)に暮らせますように。

●数の子:ニシン(二親)の子(卵)。卵にも邪気を払う力があるとされ、たくさんの卵があるので生命力と子孫繁栄しますように。

●田作り:片口鰯(かたくちいわし)の稚魚を干したもの。鰯を肥料にしたところ米がたくさんとれたので、今年もたくさん収穫できますようにとの縁起物。ごまめと呼ぶ地域もあり「五万米」に通じます。

●たたきごぼう:地中に根を深く張り根付くので、家の安泰や開運。「開きごぼう」とも言い開運。

●紅白のかまぼこ:紅は魔除けと慶び・白は清浄を表す。形状が初日の出も表す。

●伊達巻:伊達ものと呼ばれた人たちの着物に似ていたそうでこの名に。巻物を連想させるので、学問や習い事の成就。着物の反物にも似ていることから着物が増えますように。

●栗きんとん:「金団」と書き、黄金色から財産・富の縁起物。栗を殻のまま干して臼でかち(つくこと)、殻と渋皮を取り除いたのが勝栗。「かち」が「勝」に通じることから、出陣や勝利の祝い、正月料理に使われるようになりました。

●鰤(ぶり):出世魚なので出世。

●鯛:「めでたい」の語呂合わせ。

●海老:腰が曲がっても元気丈夫なので長寿。脱皮を繰り返すことから生命の更新。

●鰻:泥の中を通っていくことから「なんでも通す」。

●紅白のなます:祝い事に使う紅白の水引にあやかる。

●蓮根の酢の物:仏教でいう「極楽に生える植物」。多数の穴があることから将来の見通しがきくという縁起物。

●昆布巻:「喜ぶ」に通じる。

●かさしいたけ:陣笠に見立てた武家社会の名残で壮健を祈る。

●里芋のやつがしら:「長(頭)」になることを祈念。

●タケノコ:成長が早いので子供がすくすく伸びるように。

●金柑:黄金の財宝を連想し豊かさの象徴。

●梅の花形に切った「梅花人参」:吉兆とされた梅をあらわす

●手綱こんにゃく:結び目が円満・良縁に通じる縁起物。

中国でもお金の形をした餃子や立春を祝う春巻きは、縁起物の食べ物とされます。

3.良いイメージを作るために縁起物がある

ここまで読むと、「ただの駄洒落じゃないの?」と思うかもしれません。

たしかに縁起物の食べ物、たとえば栗自体に、

豊かさや幸福を招く力があるわけではありません。

しかし縁起物は、幸福を招いたり邪を祓ったりするイメージを喚起しやすいです。

これが儀式や風習の原点です。

「思いが現実を作る」私たちのイメージの力が未来を決めます。

日常生活をしていく中で、どうしても後ろめたいことや不安がイメージに作用し、

意に反したことや病気が現実化します。

逆に幸福で満たされたイメージを固めることができれば、幸運が舞い込みます。

ただ、いくら「プラスのイメージを持て」と言われても簡単ではないです。

悪いイメージを捨て去りきること・確固たる良いイメージを持つことは

普通の人には難しいでしょう。

そこで縁起物が登場します。

縁起物を美味しく食べて、語呂合わせ・駄洒落で笑いながら、良いイメージを強めよう~

普段の生活に良いイメージを強める習慣をつけるのが、年中行事なのです。



4.なぜ獅子舞をやるの

獅子が子供の頭にかみつくのは「神が憑く」の語呂合わせとされます。

歯を噛んで「カチカチ」鳴らすことが呪術です。

拍子木や火打石、柏手、太鼓、鐘、鈴など、

「打つ」「鳴らす」「叩く」ことに霊的に悪いものを退ける力があるとされています。

5.縁起の良い初夢とは

年を越してから最初に見る夢で、

大みそかから元旦にかけて寝ないで初詣に行く人などの場合は、

元旦の夜から翌二日にかけてみる夢を指します。

古くは節分の夜から立春の明け方に見る夢を指しました。

初夢はその年の縮図を見る夢とされ、

そのように意識して眠ることで、その年を象徴するような夢を見ることが多くなります。

「一富士、二鷹、三茄子」が縁起の良い夢とされています。

富士は「不死」、鷹は「高い」「空高く舞う」自由、茄子は「成す」成功を

連想させるからです。

一説には駿河の国(静岡県)のことわざ・名物を並べただけともいわれています。

それでも縁起の良い夢と信じて良いイメージを抱けるのなら、それも良いでしょう。

縁起の良い夢は、淡く明るいものが出てくる夢です。

縁起の悪い夢は、激しかったり極端だったり真っ暗だったりする夢です。

たとえば、

激しく黄金に輝く光景は、「今は最高」で後は落ちるしかないと解釈できるので、

あまり良い夢ではないと考えられます。

淡く美しく輝いている・雪明り・朝日などなら、吉兆ととらえられます。

6.「あけましておめでとう」は誰に対して

新年にお迎えした年神様に向けて

「ようこそ今年もおいでくださいました」

「今年もよろしくお願いいたします」

という感謝と祈り、祝福の言葉として誕生したと言われています。

旧暦で新年をお祝いしていた次弾の元旦は立春のころ。

厳しい寒さが峠を越し、生命が再び勢いを増して春の兆しが感じられる時期。

「めでたい」は植物の芽が「芽出度い」に由来するとの説もあります。

死亡率が高くて平均年齢が40代だった時代では、

「死なないで年を越したことはめでたい」だったのでしょう。

また数え年だったので元旦にみな年をとれたので、それもめでたいのでしょう。

7.若水(若水)

新年の最初に井戸や川から汲む水のことです。

まず神棚仏壇にお供えし、この水を飲むと邪気が祓われて若返ると言われていました。

水道の蛇口からでも若水になるでしょう。

蛇口というのは、水の神様とゆかりが深く水の見張り番でもある蛇の口のことです。

水をつかさどる弁財天さま・市杵島姫命さまのご眷属は蛇だからです。

8.雑煮(ぞうに)

年神様にお供えした餅・野菜を下げて若水で調理。

神様の力がこもった雑煮をいただく、神人共食の儀式です。

両方の先が削られた両細の祝い箸を用いる地域が多いようです。

上の方は神様、下の方は人が使います。

9.屠蘇(とそ)

中国で始まり、日本では平安時代から宮中行事になりました。

病を引き起こす鬼「蘇」を屠る(ほふる)退治するというものです。

漢方薬の一種で、

屠蘇散(山椒・桔梗・ニッキ・白朮・防風など)を日本酒やみりんに浸して作ります。

一年の厄を祓い延命長寿につながるとされ、身体が温まる薬酒です。

10.初詣

一家の主が大みそかの夜、氏神様の社にこもって夜通し、

新年の平安を祈った「年ごもり」の風習からきているといわれています。

現在住んでいる場所の氏神様に日頃の感謝を込めてお参りし、

その後崇敬する神社やお寺に参拝するのが良いとされます。

参拝作法などは別の記事に書いているので、そちらを参照ください。

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11.お年玉

もともとはお金ではなくお餅でした。

年神様にお供えしその力がこもった丸い小餅「年魂(としだま)」を

下げて年少者に分け与えたのが起源とされます。

年長者が年少者に与えるので、年上の方に差し上げるときは「御年賀」になります。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

参考文献:

『しきたりに込められた日本人の呪力』秋山眞人

『日本のしきたり和の心』辻川牧子



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